離婚問題

貰った養育費は返さないといけないの?

この記事を書いたのは:川口 正広

相談内容

離婚成立時に20歳まで養育費を支払って貰うという合意が成立しているが、子供が高校卒業後に正社員として就職し経済的に自立したにもかかわらず、そのまま養育費を貰っているが、それでも大丈夫かという相談がありました。

直ちに返す必要はない

養育費の問題はなかなか奥が深くてこの相談は回答が難しいのですが、まず、言えるのは当然には返還する義務は発生しません。

これまでにも、こうした事案において、父親が母親に対して不当利得返還請求をしても、裁判所は、合意に基づいて養育費を受領している以上は法律上の原因があるとして不当利得には当たらないとされる傾向にあります。

養育費の減免の審判申立はどうなるのか

しかし、難しいのはここで話が終わらないというところでして、父親が事情変更時(子供の就職時)に遡って、養育費の減免を求める審判を申し立てることができるか、という問題があります。

もし、事情変更時に遡って養育費が免除されれば、それ以降に受領した養育費は法律上の原因がなくなるので、父親から母親に対する不当利得返還請求の道が開けるのです。

一つの裁判事例

平成14年に養育費の合意をした上で離婚した夫婦について(子供の親権者は母)、平成16年に母が再婚して、子供が再婚男性と養子縁組をした事案がありました。

それをだいぶ後になって知った父親が、平成29年になってから、事情変更時(養子縁組時)の平成16年以降の養育費の免除を求める審判申立をしました。

このとき、裁判所は、事情変更時の平成16年以降の養育費を免除するとの決定を出したものがあります(東京高裁平成30年3月19日決定)。

ただ、この決定では、養育費の減免の開始時を、事情変更時とするのか、減免の請求時とするのか、審判申立時とするのか、いずれにするのかは事案の諸事情を鑑みて、裁判所の裁量で決定できる、としています。

この事案で、事情変更時に遡らせたのは、あくまで本件での事情を踏まえた個別的判断だとしているわけです。

相談内容を振り返ってみると

諸事情を踏まえて、裁判所の裁量で決定できる、と言われてしまうと、弁護士としては事案の見通しを立てるのが難しくなってしまいます。

最初の相談内容に戻ると、弁護士としての回答としては、直ちに養育費を返還しなければならない訳ではないが、父親が、事情変更時(就職時)に遡って養育費の減免を求める審判を申し立てた場合、どうなるかはなんとも見通しが立てにくい、という歯切れの悪い回答になってしまいます。


この記事を書いたのは:
川口 正広